経緯について
2018年(平成30)年10月、天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査において、天草町の海岸で姫浦層群の下津深江層に1点の歯(GCM-VP745)などの化石が露出した化石包含層が発見されました(福井県立恐竜博物館とは、平成25年より共同調査を行っています。)。当地は国立公園および名勝地内のため、許可取得後の2021年3月に御所浦白亜紀資料館が発掘を行い、追加標本(GCM-VP746)含む化石を収集しました。
産出について
天草市天草町の姫浦層群下津深江層(白亜紀末期マーストリヒチアン:約7200万年前)から産出しました。同じく天草町の姫浦層群(白亜紀後期・カンパニアン中期:約8000万年前)からは、1997年にも、高知大学の研究グループによって河浦町と天草町で姫浦層群初の恐竜化石となる植物食恐竜の化石(竜脚類の歯、鳥脚類の足跡化石)が発見されており、2014年には天草市立御所浦白亜紀資料館と福井県立恐竜博物館の共同調査において大型肉食恐竜の歯化石も発見されています。
特徴と同定について
2点共に1本の顕著な稜が中央にあり、歯根が単一であること、白亜紀末期(約7200万年前)の地層からの発見などから、進化的なハドロサウルス上科の歯であると考えられます。うち上顎骨歯1点(図右、GCM-VP745)は、咀嚼に使用された機能歯であり、咀嚼ですり減った咬耗面が確認できます。歯骨歯1点(図左、GCM-VP746)の咬耗面は破損のため確認できませんが、発達した稜の脇には2つ目の弱い稜線があります。ハドロサウルス上科の進化的グループは、歯が密集して存在するデンタルバッテリーと呼ばれる構造があり、これらの歯はデンタルバッテリーを構成していた歯と判明しました。
参考:国内における恐竜化石の記録)
日本の恐竜化石の記録は、前期白亜紀から後期白亜紀の前半に集中しています。白亜紀末期マーストリヒチアンの化石については、過去、国内では3か所、4例の化石しかありません。北海道むかわ町穂別からはカムイサウルス・ジャポニクス(ほぼ全身骨格)、兵庫県洲本市(淡路島)からはヤマトサウルス・イザナギイが発見され、これら2種はハドロサウルス科の新種です。鹿児島県薩摩川内市上甑島ではハドロサウルス上科(大腿骨)と獣脚類(歯)の化石が報告されました。日本にはマーストリヒチアンの化石記録がまだ多くありませんが、今回の発見は白亜紀末期まで恐竜が日本に広く生息していたという証拠が追加されたと言えます。
意義について
○ 今回の発見により熊本県の新しい恐竜化石産出地が追加されたことで、 熊本県はアジアのハドロサウルス上科の変遷史を辿る上で、時代の異なるハドロサウルス上科の化石が得られる場所であると判明しました。
○ 日本の数少ない白亜紀末期マーストリヒチアンの恐竜化石であり、恐竜の大絶滅前の多様性がどうであったかを知る重要な資料となります。
公開・展示について
実物化石の展示
場 所: 天草市立御所浦白亜紀資料館 2F研修室
期 間: 令和3年7月17日(土)〜令和3年8月31日(火)
※企画展「恐竜からイルカまで天草一億年の旅 -御所浦白亜紀資料館収蔵品展-」も開催しています。詳しくはこちらへ。
レプリカの展示
場 所: 福井県立恐竜博物館 常設展
期 間: 令和3年7月17日(土)〜
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