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九州初の恐竜時代の昆虫化石について

熊本県上天草市龍ヶ岳町椚島(くぐしま)から昆虫類の腹部の化石、長崎県長崎市から甲虫目の翅(はね)の化石が発見され、当博物館と福井県立大学恐竜学部、福井県立恐竜博物館、長崎市恐竜博物館およびロシア科学アカデミーの共同研究によって、これらの化石が中生代(恐竜時代)の昆虫化石としては九州初のものであることがわかりました。この研究については、日本古生物学会の国際学術誌「Paleontological Research」で報告しています。
今回の報告で、国内の中生代の昆虫化石の発見地は、四国を除く22地域となりました。これらの化石の報告は、当時の陸上の生態系を知る上でも非常に重要であり、東アジアの昆虫化石の多様性を理解する上でも重要なものとなります。


上天草市産の昆虫化石について

【図1】上天草市産の昆虫化石(AMGD-IVP4856)とそのスケッチ
【図2】化石の部位を示す図

※図1は(c)福井県立大学恐竜学部・福井県立恐竜博物館・天草市立御所浦恐竜の島博物館、図2は(c)福井県立大学恐竜学部・福井県立恐竜博物館。
※図2は一般的な甲虫類のもので、化石の復元でありません。

昆虫類の腹部化石(標本番号:AMGD-IVP4856)

【産 地】熊本県上天草市龍ヶ岳町椚島(姫浦層群樋の島層)
【時 代】中生代白亜紀後期 約8,500万年前
【大きさ】長さ約6.18 mm × 幅約6.18 mm

【特 徴】昆虫の体は主に頭部・胸部・腹部の3つで構成されており、この化石は腹部(腹面)が主体となります。化石には五つの体節が保存されており、胸部と腹部の境界部である後脚の基節(スケッチの赤線部)から、腹部の末端部(スケッチの矢印)まで確認でき、ややずんぐりとした形をしています。このような特徴から昆虫の腹部と考えられ、中でも甲虫目やカメムシ目の腹部に似ています。胸部と腹部の境界部の構造からおそらく甲虫目に属する可能性がありますが、より詳細な分類には、追加標本の発見が必要です。

【発見と研究の経緯】2007年10月に熊本県氷川町の山田良二氏が上天草市龍ヶ岳町椚島で発見し、御所浦白亜紀資料館(現在の当博物館)に寄贈されました。その後、これまでに共同調査研究を行っていた福井県立恐竜博物館と御所浦白亜紀資料館が、当時、九州大学大学院生であった大山望氏(現在、福井県立大学助教)に鑑定を依頼し、重要な昆虫化石と判明したことから、化石の発見場所や周辺地域の地質と年代などについて調査を行いました。


長崎市産の昆虫化石について

【図3】長崎市産の昆虫化石とそのスケッチ(中央)・RTI画像(右)
【図4】化石の部位を示す図

※図3は(c)福井県立大学恐竜学部・福井県立恐竜博物館・長崎市恐竜博物館、図4は(c)福井県立大学恐竜学部・福井県立恐竜博物館。
※図4は一般的な甲虫類のもので、化石の復元でありません。

甲虫類の翅化石(NCDM-BENC101968)

【産 地】長崎県長崎市長崎半島西岸(三ツ瀬層)
【時 代】中生代白亜紀後期 約8,000万年前
【大きさ】長さ約10.92 mm × 幅約6.63 mm

【特 徴】発見された化石は、胸部の外側にある左の翅(はね)です。ほぼ完全な翅で、後方(スケッチでは下方向)へ向かうに従って狭くなり、翅の先端では弱くとがります。翅の縁にはカリナ(中央の赤線の部分)がある。表面に顕著な翅脈がなく、二本の条線と彫刻が確認でき、硬化しています。また、翅の前縁にはカリナと呼ぶシャープなエッジがあります。このような特徴から、昆虫類のなかでも甲虫目の鞘翅(さやばね)である前翅(ぜんし)であると考えられます。また、RTI画像では、その表面に微細な模様が確認できます(スケッチの中央四角内の模様はその例です)。


学術的意義について

1)九州初の中生代昆虫化石の報告であること
これまで国内の中生代の昆虫化石の産出は本州と北海道に限られており、今回の報告が九州から初めての産出となります。九州には恐竜化石を産出する陸で形成された地層が広く知られていることから、昆虫化石の発見も長らく期待されていました。今回の研究成果は、日本の昆虫類の古生物地理的分布の空白を埋める画期的な成果と言えます

2)後期白亜紀の陸上生態系の解明にも役立つ
昆虫は現在の陸上生態系において分解者や花粉媒介者、被捕食者となるなど様々な役割を担っています。本研究で発見された後期白亜紀の昆虫も同様に、当時の昆虫は様々な生物との相互作用をもたらす存在であったはずです。報告の昆虫化石は、日本では化石記録の少ない後期白亜紀のもので、詳しい年代値の分かる地層((ひ)(しま)層=約8,500万年前、三ツ瀬層=約8,000万年前)からの発見です。そのため、化石は東アジア縁辺部の陸上生態系復元や古環境解析に役立つ基礎的データとなります。

3)化石の保存状態を最新の観察技術(RTI)によって解析したこと
長崎市産の化石は甲虫目と考えられ、その分類学的考察ができる特徴が保存されていました。不完全な化石でも、特にRTI(Reflectance Transformation Imaging)技術を用いた観察で、意義ある微細構造の情報が得られています。その観察に基づく詳細な画像記録もオンライン(Supplementary Online Material)で公開されており、オンラインを経由した形質情報の再現性と国際的な比較研究が可能となった点も、この研究の評価を高めています。


展示公開について

上天草市産の昆虫化石(昆虫類の腹部の化石)
場 所:天草市立御所浦恐竜の島博物館
期 間:令和7年9月27日(土)~12月7日(日)

長崎市産の昆虫化石(甲虫目の翅の化石)
場 所:長崎市恐竜博物館
期 間:令和7年9月27日(土)~12月7日(日)

※上記2点の化石をそれぞれで展示公開後、福井県立恐竜博物館において期間限定で展示する予定です。
期 間:令和7年12月13日(土)~令和8年3月上旬(予定)